不動産の相続時に気を付けたいトラブル

遺産相続の基礎知識

不動産相続の落とし穴にご注意を

シンプルに等分できる現金と違い、不動産という財産はとても取り扱いの難しいものです。不動産の資産価値評価や分割方法は、時には専門家ですら判断を誤ることがあるほどですから、多くの一般の人々にとってはなお悩みの種となります。また、遺産相続には人間関係や個人の感情も絡み合うため、問題はますます一層複雑化します。ここでは、よく見られるトラブルとその対策方法を数例ご紹介しましょう。

共同名義人の同意が得られない

長男・次男は亡父から実家の土地と家屋を持分50%ずつの共同名義で相続しました。10年が経過し、長男は次男に対して土地と家屋の売却を提案しました。しかし次男は売却に反対し、言い争いをするうち兄弟仲は決裂してしまいました。

長男は自分の持分だけでも売却したいと考えましたが、共同名義状態であるため買い手がつかず、強制的に売却を行う「共有物分割請求訴訟」を起こしました。裁判の末、結局家と土地は競売にかけられ、市場価格よりも大幅に安い価格で売るはめになってしまいました。

トラブルを防ぐには?

不動産の共同名義は、後々にトラブルが起こる可能性が高い相続方法です。処分方法について意見が食い違っても、不動産に対する権利を分け合っている以上、自分の意見だけを押し通すことはできません。問題がこじれて不動産を競売にかけることになったら、普通に売却するよりも安い価格で売られてしまうのが普通です。初めから共同名義にしないのがベストですが、すでに共同名義で相続を行っている場合には早期解消を目指すことが望ましいでしょう。

遺産が自宅しかなく代償分割も難航

母親が亡くなり、遺産として自宅のみが残りました。自宅には長男一家が暮らしています。次男は「家を売って現金化して2人で等分したい」と願い出ましたが、長男一家は「私達がまだ住んでいるのだから、売却には応じられない」と反対しました。次男は「それなら、僕の取り分として家の価値の半分を現金で払ってくれ」と要求し、金額を提示してきました。長男一家にとって手痛い出費でしたが、支払いに応じるほかありませんでした。

トラブルを防ぐには?

1人が現物の遺産を相続し、他の人の取り分を現金などで支払うことを代償分割と言います。代償分割のための不動産価値の判定は非常に難しく、鑑定ができる専門家に依頼することになります。代償金を受け取る側は少しでも多く受け取りたいと考え、支払う側はなるべく安く済ませたいと考えるため、双方の鑑定家の提示する金額が大きく食い違うことも少なくありません。双方が納得できる落とし所の金額を模索するしかないでしょう。

相続登記を放置していた

母親の死後、遺言通り不動産は兄が、現金の遺産は妹が相続しました。時が経ち、先に兄が亡くなって相続が行われることとなりましたが、ここで初めて母親から兄への不動産名義の書き換え(相続登記)が行われていないことが判明しました。兄の遺族達は不動産を処分したく、妹の同意を得るため話し合いが持たれましたが、妹は「昔のことだから覚えていないが、私にも相続の権利があるのではないか」と言い出しました。大げんかに発展し、法律家の介入を受けるまでに至ってしまいました。

トラブルを防ぐには?

相続不動産の名義の書き換えを怠っていると、後々になって揉めごとの火種となります。相続登記が何十年も放置されると、後に不動産を処分しようとした時に同意を得なければならない相手が会ったこともない遠縁の人であったり、不仲で連絡を取ることが難しい関係の人であったりといった問題も生じます。最初の相続の際に、口約束だけでなく必ず相続登記まで済ませておけば起きなかったはずのトラブルです。

賃貸物件の収益悪化

父親の死後、兄は多額の現金を、弟は賃貸アパートを相続しました。当初、賃貸アパートには十分な収益がありましたが、その後状況が変化して入居者はゼロとなり、経費ばかりがかさんで収益はマイナスとなってしまいました。弟は「こんなはずではなかった。兄ばかりが得をしている」と考えるようになり、兄弟仲は悪化しました。

トラブルを防ぐには?

賃貸物件の相続には要注意です。数十年間もの「家賃保証」を謳う不動産会社に運営を委託している場合でも、保証される賃料が数年ごとに見直されてジワジワと収益が悪化するというケースも多々あります。この場合、賃借人に立ち退き料を支払って、土地建物を売却する必要があるかもしれません。相続人全員の同意が得られれば遺産分割協議をやり直すという手もあります。

知識不足のせいで高くなった相続税

Aさんは父親の相続時に土地を相続し、税理士に言われるままに相続税を支払いました。後になって、別の不動産鑑定士から「あなたの土地は形が悪いし、道路との接地状況も悪いので、相続税はもっと安くできたはずだ」と教えられ、土地の評価が適切でなかったことを知りました。

トラブルを防ぐには?

土地の評価には複雑な要素が絡みます。単純な計算式を当てはめると、土地の本当の価値に見合わない評価が下ってしまうことがあります。条件の悪い土地の相続時には、初めから不動産鑑定の専門家に依頼しておくと良いでしょう。すでに相続税を支払っている場合は、申告期限から5年以内であれば払いすぎた分の還付を受けることができます。